大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)1449号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人森武喜上告趣意第一点について。

判決をした裁判所の公判廷における自白が、憲法三八条三項の本人の自白に当らないことは、すでに数次の判例において示したとおりである。所論の原審公判調書記載の供述が証拠力を有し得ることは論なく、その証拠力の判断は一に原審裁判所の裁量に属する。そして原審認定の事実は、原判決挙示の証拠で認め得られるから原判決が証拠によらずして事実を認定したという違法はない。原判決の認定した事実は横領の事実であり、窃盗の事実ではない。これを窃盗であるとの主張は、原判決の認定しなかった事実を主張するものであって、事実誤認の非難に帰着し法律審に対する適法な上告理由ではない。

同第二点について。

人を恐喝して財物を交付せしめる場合には恐喝罪が成立する。本件のように公務員がその職務を執行するの意思がなく、ただ名をその職務の執行に藉りて、人を恐喝し財物を交付せしめた場合には、たといその被害者の側においては公務員の職務に対し財物を交付する意思があったときと雖も、当該公務員の犯行は、収賄罪を構成せず恐喝罪を構成するものと見るを相当とする。すなわち、被害者の側では公務員たる警察官に自己の犯行を押さえられているので処罰を怖れて財物の交付をするのであって、全然任意に出でた交付ということはできないから、恐喝罪のみを構成するものである。原判決が被告人の判示同旨の供述の外に被害者辻伊三郎の寛大な取扱を受けたくて交付したとの供述を証拠として原判示の事実を認定したことは、何等証拠に矛盾は存在しないのである。被告人が名を職務の執行に藉りて金員を喝取せんとした事実は原判決の認定した事実であって、所論のようにこれを職務執行であると主張することは、原判決の認定しない事実を主張することに帰着し適法な上告理由と認め難い。論旨は採ることを得ない。

よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例